■ 転調は音楽をディープにする 2001.1.26 本澤なおゆき 「転調」というとちょっと技法的なひびきがあると思う。しかし、人は意識的にも無意識的にも、この「転調」が原因で感動を覚えることが、実は多いんじゃなかろうか。 僕が転調している部分に感動を覚えてしまう曲はものすごく多い。とりあえずの典型的な例は、ミュージカルだろうか。「キャッツ」の「メモリー」(アンドリュー・ロイド・ウェッバー作曲)とか、「ウエストサイド・ストーリー」の「サムウェア」(バーンスタイン作曲)などが挙げられるが、まだまだ他にも沢山ある。 ミュージカルでは、1つのテーマを、女性が歌い、男性が歌い、デュエットで歌って盛り上がる、みたいに、物語の流れと声域の関係で必然的に転調させなければならないことが多い。しかし、著名な作曲家はそういう制約を全く感じさせない見事な転調を作って感動させるのだ。すごい。 1. 「Memory」における転調 「Cats」の「Memory」では、サビのメロディが1-3回目ではC majorであるが、4回目ではEb Majorに短3度上昇している。これは最後を盛り上げるための常套手段とも思われるが、それが以外に単純ではないのだ。 サビ1 C major いいところは、ブリッジ1のD majorからサビ3のC majorにつながる所にもある。ちょっと変わっているがあっさりしていて自然である。 にくいところは、ブリッジ2であらかじめ転調しているところだ。しかも今度はブリッジ2とサビ4のつながりを、強力なドミナント進行にして、しかも音域の大幅な跳躍を用意するために、ブリッジ2をブリッジ1に比べて長3度も下げているのだ。 う〜ん。用意周到。ここは作曲者が意図した通りに皆が感動する場所じゃないだろうか。くやしいけど。 レナード・バーンスタイン作曲「Westside Story」の「Somewhere」の冒頭の「There's a place for us...」というところの、「Bb, Ab, G, Eb, C」というモチーフは、ベートーベンのピアノソナタの中から取った、とかいうエピソードがあるね、この曲。 それはさておき、「Somewhere」の転調の美しさは、メロディとの絡みがあって、単にコード進行の移り変わりだけでは語れないのだが、だいたい次のようなアウトラインだ。 Aメロ「There's a place for us...」 Eb Major Aメロに対してサビで長3度下がり、また美しく元に戻る。 こんなふうに、ソングの中に転調を含み、自然に元に戻る曲って、他にも沢山あると思われます。ベートーベンの交響曲第5番の2楽章(Ab MajorとC Majorを行き来する)とか。ユーミンの「中央フリーウェイ」なども、素晴らしく元に戻るよね。何か他にいい例はないだろうか? |
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