写真5 CとEbの和音を左手で叩く |
当たり前のようですが、鍵盤の中央を叩いたとき最も大きく美しい音が鳴ります。そして、2番目にいい音がするのは、鍵盤のぎりぎり端を叩いたときなのです[写真3]。
これは、鍵盤の振動特性によります。鍵盤には、鍵盤を吊るして固定するためのひもを通す穴が2箇所ありますが、そこを「節」〔振動しない部分〕として、中央部分と両端とが「腹」として自由に振動する特性を持っています。したがって節の部分が最も鳴りにくい[写真4]。逆にここを強く叩くと、2オクターブ上のハーモニクス音が鳴ることがあります。
ということは、例えばCとEbの和音を左手で叩きたい場合は、[写真5]のようにすればよいわけで、左手を不自然にひねって鍵盤の真ん中を叩こうとする必要はないわけです。そうして、4本マレットでは、あらゆるタイプの和音を叩くことが可能になります。ただし、できるだけ真ん中を叩いたほうが、音量の幅が大きいので表現が豊かになります。メロディラインなどは、ど真ん中を叩きましょう。
2. 鍵盤の裏のくぼみはいったい何?
写真6 鍵盤の裏のくぼみ |
マリンバ、木琴、そしてビブラフォンの鍵盤の裏には、真ん中が薄くなるように大きく削られています[写真6]。これはいったい何のためか? 正解は倍音調整のためです。これがないと倍音成分が変化するため、音色ががらりと変わるはずです。
バイオリン、ピアノのような弦楽器や、フルート、トランペットのような管楽器と違って、打楽器の多くはふつう整数倍の倍音成分を持たない。鍵盤打楽器もその例にもれず、グロッケンシュピールや木琴の高音部のようなヨーカン型の鍵盤の、基音の次に優勢な2番目の倍音は、基音の2.76倍付近であるため、基音の17.5半音上の音(基音がCなら1オクターブ上のFとF#の間の音)、つまり不協和音が同時に響いてしまいます。
鍵盤の裏を削ることによって、2.76倍を4.0倍に引き上げて、2オクターブ上の音、つまり弦楽器や管楽器でいう第4倍音に調整したものが、ビブラフォンやマリンバなのです。このため、これらの楽器はよく響く豊かな音色を持っています。クラリネット(同じように第4倍音が優勢な楽器)にもよく似た深い響きがあると、僕は思っています。
3. マリンバと木琴の違いはご存知ですか?
それに対して、木琴(シロフォン)はというと、削り具合を少なくして、2.76倍を3.0倍に引き上げて、1オクターブと5度上の音、つまり第3倍音と同じ音にして独特の硬い音色を得ています。つまり、マリンバやビブラフォンでは「ド」を叩くと2オクターブ上の「ド」が鳴るのに対して、木琴では1オクターブと5度上の「ソ」の音が鳴るのです。このマリンバと木琴との大きな違いは、意外に知られていないようです。(参考文献:Brooks/Cole Publishing Company, "Musical Acoustics" by Donald E. Hall)