旅行記
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パリ編
ミラノ・ローマ編
ミュンヘン・ハイデルベルク編

 旅行記 by Naoyuki Honzawa

ミラノ・ローマ編(1997年1月4日〜8日)

カラカラ浴場のタイル跡と俺
カラカラ浴場のタイル跡と俺

早朝スイス経由でミラノへ向かう 宿の人の温かさに触れた


970104 Sat

 7:12ミラノ行きの汽車に間に合うように早く起きた。昨日精算を済ませたので、ただホテルを出ていけばいいと思っていた。準備を整えて、初めて来た時と同じように重い荷物を4階からロビーまで運んでいくと、なんかコーヒーの匂いが。こんな早くになんだろうと思ったら、なんと私達のために朝食を用意していてくれていたのである。普通の朝食の時間は7時半からなので、この日は朝食にはありつけないと思っていたばかりに、このパートのおばさんの暖かい配慮には感動して涙を流さざるを得なかった。

 朝の薄明かりの中パリ北駅に向かい、地下鉄でリヨン駅に向かった。リヨン駅からローザンヌ行きの汽車に乗る。のちにスイスのローザンヌでミラノ行きに乗り換えるのだ。パリを発ってからしばらくして、昨晩パリのホテルで飲んだワインの残りで乾杯をした。ミネラルウォーターの小さいペットボトルに無理矢理詰めたワインであったが、時間がなくて食べきれなかった朝食の残りのバケットと共に、粋な鉄道の旅を演出した。

 早起きして眠かったので南フランスの風景はほとんど目に入らなかったようだ。スイスとの国境でパスポートのチェックを受けた。それから間もなくスイスのローザンヌに着いた。パリから約3時間だ。すぐ向かいのホームに停車している列車に乗り込んで出発。切符によると、これはたった7分の待ち合わせだったらしい。今度の列車には、大声でまくしたてるイタリア人らしき人達が目に付いた。パリからの道のりが、フランスからイタリアへ段階的に変化しているのを感じさせた。

 日本の山間部によく似た地形を通った。何となく懐かしさを感じた。午後2時20分頃、曇り空のミラノに到着した。ミラノ中央駅は大変大きな威厳のある駅で、おいしそうなパンやあらゆる種類のハムなどが並んでいる魅力的なスーパーマーケットや、カメラなどの雑貨屋、薬屋、本屋、見付けられなかったが旅行者用のシャワールームまであるらしいのだ。ちょっとした庶民的なショッピングモールのようだ。ここでいくつかの出来事があったが、覚えていないため順番が正しくないかも知れない。

 まずはお金がなければ何もできない。一番怪しくなさそうな両替所で、フランをリラに替えた。イタリアは何となく怖いところだ、と思っていたので、身軽になるためすぐに荷物を預けた。いや、荷物預かり所はすぐには見付けられなかった。ここではコインロッカーでなく人に預けるので安心だ。そして、泊まるところがなくてはジプシーの餌食にされてしまう。英語で難なく近くのホテルを予約した。ジプシーなどが近づいても相手にするな、と念を押された。ミラノでは全くそういう目に会わなかったが。この案内所で見たアメリカ人らしき若いカップルがおもしろかった。ヨーロッパの寒さをほとんど考えなかったような薄着で、「どこか暖かいところはないか?」と訊いていたのである。案内のおばさんは、そんな彼らにナポリとかを勧めていた。適当にヨーロッパに来てしまったアメリカ人のお気楽さがかわいかった。

 そしてもともと立ち寄る予定のなかったミラノに長く居るわけにはいかない、とローマ行きの列車の予約をした。始め行った当日券窓口では買えず、予約窓口に行くと何人も番号札を持って待っていた。へとへとで座りたくなったが、椅子は非効率的に皆ふさがっていた。日本やアメリカだったらこんなことあるまい。明日午前9時発のローマ行き禁煙席を手にいれて、日が暮れそうな雨のミラノのオフィス街をホテルまで約800m歩いた。人通りがない休日のオフィス街で、地面は平らでアーケード状の屋根があるのでとても楽だった。

 ホテルに着いたときはもう暗かったが、夜でもいいから観光しようということになって、地下鉄で観光の中心部ドゥオモ付近へ行った。イタリアの代表的ゴシック建築ドゥオモは、ライトアップされたいくつもの尖塔が圧倒的で美しかった。そこからにぎやかなアーケード街を歩いていくと大変質素なスカラ座があった。公演はなく、ポスターが数枚張ってあるだけだった。アーケード街を戻って、ドゥオモ付近のフードコートでビールを飲みながらピザを立ち食い。最高のひととき。イタリアは食べ物がいちいちうまい。アイスクリーム屋で食券を買うのに、全く意味の分からない複雑なイタリア語の品名を発音しなければならないので苦労した。同じように苦労していた日本人2人に、アイスクリームの買い方を教えてあげた。初めてイタリアでアイスクリームを食べ、腹を十分に満足させた2人は、地下鉄でホテルに戻って寝た。


970105 Sun

 朝ホテルを出て、荷物を引きずってミラノ中央駅へ。パンやスナックやオレンジジュースなど調子に乗って沢山買い込み、午前9時発のローマ行きに乗り込んだ。コンパートメントの席で、おばさんのシスター2人と同席だった。英語はあまり通じなかったけど、何か話した気がする。2人は、ローマがキリスト教カトリックの総本山であることを十分に感じさせた。途中怪しい子供が1人入ってきて、ちょこんと隣に座り、すぐに行ってしまった。あれは何だったんだろう。財布の場所を余計に気にする様になった。

 ローマ・テルミニ駅に着いた。大きい駅だがミラノ駅とは何か様子が違う。まるで失業者の様な暇そうな男たちがうろうろしている。もともと人が多いようだ。そして物騒。おまけに物価が高い。通りに出ても物騒で、気を張りながら歩いた。ホテルの勧誘が多いのが煩わしかった。実はこれは、さすがイタリア人らしく、いまだに正月休みだったということが後に分かった。後にローマを離れる1月8日の朝から急に街は活気を取り戻し、暇そうな人達はさっと姿を消したのだ。最初はローマってなんて物騒な街だと思った。

 まずそんなコワイ駅だから、と荷物を預けて身軽になった。ホテルを予約して、今度は難なく見付かった予約窓口で、ミュンヘン行きのクシェット(簡易寝台車)の切符を買う。ウイーンやザルツブルクにも行きたかったのだが、予定外のミラノの滞在があったので、直接ミュンヘンに行くことにした。予約窓口の近くに思いがけずシティーバンクがあったので、トラベラーズチェックをセーブするため、日本の口座から直接おろした。ラッキー。

 短い時間だったが預けていた荷物を取って、ホテルまで歩いた。駅からは近かったが、道はでこぼこだし、汚いし、暇そうな人達がいっぱいいるし、いいことなかった。でも無事にホテルに着いた。従業員が男だけの妙に閉鎖的で、驚くほど天井が高いが汚いホテルで、先が思いやられた。ここに3泊もするのか。

 夕方近かったが、ホテルを出てすぐ近くのSt.Maria Maggiore(サンタ・マリア・マッジョーレ教会)を見た。その後は多分レストランを探したが入りやすいところが見付からず、駅の中のカフェテリア風のレストランで食べたと思う。ミラノの様に安上がりにはいかなかった。連日の移動で疲れた私達はホテルに戻ってゆっくり休んだ。

もちろん「ローマの休日」関連スポットはおさえる


970106 Mon

 さて今日から本格的なローマ観光である。ローマといえば遺跡、とコロッセオやフォロ・ロマーノを目指して歩いた。その前に、ホテルの朝食はほとんどクッキーのような硬いパンにカプチーノという質素なもので我々をがっかりさせたことを書かねばなるまい。昨日見た教会の横を通り、人通りは少ないが情緒あふれる丘の細い路地を通り抜けると、コロッセオが見えた。途中、ジプシーらしき子供3人が、「パパー、パパー!」と私の回りを囲んで、私のコートをパタパタ叩き始めたので、「ノー!」と強く叱ったら逃げていった、という出来事があったが、忘れたい。あいつらが大人だったら、財布を渡さなければ殺されていたのかも知れないな。気を付けなければ。

街中いたるところに遺跡が転がっているのだ
街中いたるところに遺跡が転がっているのだ

 コロッセオは素晴らしかった。お金を払えば中を登れたらしいが、払わずに十分楽しむことにした。コンスタンティーノの凱旋門などを見ながら歩いて、カラカラ浴場跡に向かった。結構歩いたが、観光客の群から解放されて、落ち着いて見ることが出来た。千年以上も昔の床のモザイクの模様が部分的に残っているのには感動した。壁画も幾つか残っている。ここでは夏、ローマ・オペラ座の野外オペラが上演されるそうだが、そのためのステージの骨組みがあった。とにかく曇り空のローマのこの遺跡は、時を忘れさせる不思議な空間だった。

 そこからパラティーノの丘を右に眺めて、車にひかれそうになりながらひたすら歩いた。テヴェレ川の近くの何の変哲もないサンタ・マリア・イン・コスメディン教会の壁に、映画「ローマの休日」でおなじみの「真実の口」がある。これから手を突っ込もうとしている数人の後ろに並んでから、その口に手をつっこんだ祐子を写真に撮った。非常に不名誉なことだが、真実の口の右側の壁には、「WATANABE 只今参上」と大きく彫ってあった。いったいどこの国の人がやったんだ!?

 お昼も近くなったのでレストランを探すことにしたが、辺りには何もない。どうしようと途方に暮れたが、駅でもらったローマの地図になぜかマクドナルドだけ5箇所も載っていたので、最寄りのマックへとテヴェレ川の橋を渡った。店に入るとなんか普通のマックと違う。いかにもイタリアらしく、数種類のサラダがガラスケースの中に並んでいたのである。私達はフィレオフィッシュとコンボ(セットメニュー)とコーヒーにした。これから何度もマックにお世話になるのも知らずに。

 ふたたびテヴェレ川を渡って、ローマ観光の中心地であるエマヌエーレ2世記念堂まで歩いた。途中、最古の橋といわれるティベリーナ島に掛かる橋を眺めた。煉瓦の街並みが古さを感じさせた。高台にそびえ立つエマヌエーレ2世記念堂。その脇には新しい白い階段と古い茶色い階段がある。白い階段を登り、エマヌエーレ2世記念堂の後ろを通ると、茶色の建物(カピトリーノ美術館?)の脇に立つ柱の上に妙な像を見付けた。人間らしき子供2人が、大きな狼のお乳を腹の下から飲んでいるのである。いったいそれにはどんな意味があるのだろうか。

 景色がひらけたと思ったら、そこはだだっ広い遺跡群・フォロ・ロマーノだった。崩れかけた凱旋門、取り残された白い柱数本、石畳の道の跡、規則正しく並んだ柱の土台の部分など、高台から眺める遺跡群には驚かされた。フォロ・ロマーノの入り口まで行ってみたが、午後1時以降は入場出来ないらしく残念な思いをした。しょうがなく、道を挟んで反対側のフォロ・トライアーノを見て我慢することにした。とは言っても、柱の破片がごろごろ転がっていて、これだけでも十分すごい遺跡なのである。

 ナツィオナーレ通りをひたすら歩いて駅に戻った。共和国広場のロータリーに2人乗りのバイクが通りかかったので、ローマの休日にあやかって写真に収めた。乗っていたのは男2人だったが。駅のドラッグストアでフィルムを買った。ホテルに戻ったが、オートロックの玄関を開けてもらうのに大きなビルの表札にある小さなボタンを押してみたら開けてくれた。なんか、テレビカメラで覗かれているような、まるで監獄のような人間味のないホテルだった。ホテルの入り口は2階にあって、そこへ行くまで広い螺旋階段を昇らなければならない。

 ホテルで十分休んでから、夕飯を食いに出かけた。どの店が怪しくないか迷ったが、比較的オープンなカフェテリア風の安そうなお店に入った。ローストチキンのプレートと白ワインをもらって、奥のテーブルに座って食べた。ミラノのように安い印象を持たなかったが、結構おいしかった。イタリアは飯がうまいぞ。


970107 Tues

 ひとつもおいしくない硬いパンとちょっとはおいしいカプチーノをまた朝食にとった。テルミニ駅のATMで、再びシティバンクのカードを使って10万リラおろした。シティバンクは実に優秀だ。私達は地下鉄に乗りスペイン広場に向かった。

 地下鉄の駅からちょっと歩けばすぐスペイン広場だ。ローマの休日でおなじみのスペイン階段と2つの塔を持つトリニタ・ディ・モンティ教会を見る。アイスクリームは売ってなかった。そのかわり焼き栗のようなものを売るおじさんをよく見た。よく写真で見るように花も咲いたりの賑わいはなかったが、のんびりと落ち着いていて良かった。もちろん近くの観光客に記念写真を撮ってもらった。その写真は写りが良かったが、2人と階段と壁しか写ってなかった。でも大寒波のイギリス・フランスから来た私達は、暖かさのありがたみをヒシヒシと感じていた。1時間以上外にいられる!

 そこからよく分からない路地をつたってトレヴィの泉に来た。あるいは何か案内板に従ってたどり着いたのかもしれない。途中ブランドものらしき店の外に一列に並ぶ妙な光景が見られる路地があった。並んでいるのはもちろん、ほとんど日本人だ。トレヴィの泉は賑わっていたが、水はチョロチョロっとしか出ていない。冬は水を出さないんだろうか、と思いながらも一応記念写真を撮る。一応後ろ向きにコインを投げてみる。他の観光客もチョロチョロの泉に同じようにコインを投げていた。

カトリックの総本山、サン・ピエトロ寺院とクリスマス・ツリー
カトリックの総本山、サン・ピエトロ寺院とクリスマス・ツリー

 泉の周辺の食事をとることにした。またどの店にするか迷ったが、若い女の子がチラシを配っていたカフェにやっぱり足を踏み入れることにした。観光客は土地を知らないから、そういった積極的な宣伝に弱いのだ。なんたらスパゲッティと白ワインにして、昼間っから2人は赤い顔になった。おいしかった。単純にワインがあれば何でもおいしいのかも知れない。フリーマーケットを眺めたり、革製品の店をチェックしていったりして、トレヴィの泉に戻ると、なんと水がジャバジャバ出ているではないか。慌ててもう一度記念撮影。もう一度コインを投げたかどうかは忘れた。

 コロンナ広場の塔の横を少し歩いてパンテオンという建物に入る。円形の大きなドーム状の神殿だ。天井にはポッカリ大きな穴が開いていて、自然の光だけで室内が照らされる。ヒンヤリとしていたが、すでに歩き疲れていた私達は、この異空間のなかでしばらくボーっとしていた。ヴェネツィア広場から、ふたたび大きなエマヌエーレ2世記念堂を遠くから見た。なんだかオレ達はローマに来て初めて観光らしき観光をしているぞ。

 トレヴィの泉の辺りで革製品の店をチェックしていた私達は、革製品が安い(らしい)このイタリアでぜひカバンを買っていこう、という第2の目的をたてた。(らしい)というのは、実際には思ったほど安くなかったことを示している。革製品の店を3軒くらい見てまわって、一番センスのいい、というか一番ハンドクラフト風な店で、あれこれ聞きながら迷いに迷って、それぞれ気に入った茶色の革のカバンを1つずつ購入した。きちんと免税手続の方法などを細かく教えてくれた良心的なお店だった。EC加盟国から脱出する最後の国の税関で、つまり私達の場合アメリカに戻る前のロンドンの空港の税関で、免税手続をしなければならないらしく、少しややこしいのだ。

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