旅行記
ボストン出発〜シカゴ編
ニューヨーク編 (英)
フィラデルフィア編 (英)
ワシントンDC編 (英)

 旅行記 by Naoyuki Honzawa

ボストン出発〜シカゴ編(1996年5月11日〜14日)


リンカーン公園から望むシカゴのスカイライン


960511 Sat

 ボストンからシカゴへ向かうアムトラックの鉄道、レークショア・リミテッド号の客室(コーチ)内にて。間もなくマサチューセッツ州とニューヨーク州の境近くのピッツフィールドに着くらしい。外は雨。時折雷が。車内は広く、シートも傾くし、レッグレストを出してあぐらをかいて、ポータブルCDでチックコリアの「フレンズ」を聴く。まずまずの旅のスタートである。ボストンを出る前に友人と立ち寄った、ニューベリー通りのスパゲッティ屋の残り物を、午後5時頃、食堂車で手に入れたコーヒーとフォークとともに食べた。今はボストン交響楽団の夏の拠点になるタングルウッドの近くらしい。坂を登る速度はとても遅い。箱根登山鉄道並である。貨物列車とすれ違うのに数分もかかるみたいだ。貨物列車が想像以上に長いことが分かる。次は計ってみたい。


960512 Sun

 昨夜の雨とはうって変わって今日は快晴、日差しが強そうだ。でも肌寒い。もうシカゴは近いのだろうか。実はセントラル・タイム、イースタン・タイム、そしてサマータイムがない地域が入り組んでいて、時刻が分からない。多分後2時間でシカゴだろう。そうするとまるまる24時間で1017マイルの道をたどってきたことになる。実に遠い。でも西海岸まで大陸横断するとしたらシカゴはまだ1/3の地点なのだ。クリーヴランドの辺りではエリー湖が美しかった。田園風景も良い。しかし貨物列車が来ると台無しだ。しばらく風景が見れなくなる。今日は母の日だそうだ。食費は驚くほど安い。朝食は2ドルのサンドウィッチと1ドルのコーヒーだ。まる一日の列車の旅は疲れたが、飛行機のエコノミークラスよりは快適かも知れない。 

 シカゴ駅へは2度止まり、1度目はただ方向を変えるためだから、パニックにならないように、という説明があってから、ミシガン湖越しにすでに見えていたシカゴのビル群のスカイラインが大きくなり、広いハイウェイの延長上に重なった。黒人が多い地区を通る。バスケで遊ぶ子供達が2カ所。列車に石を投げている悪ガキが2人。煉瓦の茶色と芝生の緑とタンポポの黄色が印象的だった。

 シカゴ・ユニオン駅に着いて、中華のファーストフードで海老チャーハンを食べ、通りへ出た。シアーズタワーという110階建ての世界一高いらしいビルに登って、シカゴの街を把握した。というより駅から最も近いだけで、大きい荷物を持ったまま立ち寄ることにした。一分もかからないエレベータ。階数が表示されない気の利かないものだったが、横浜ランドマークタワーと同じくらい速かった。その後、シカゴ交響楽団のチケットを買いにてくてくグランドパークまで歩いた。あいにくいいプログラムがなくて、オルフェウス・オーケストラのチケットを買う。

 アーリントン・ハウスというユースホステルにチェックインした。もう夕暮れだったが、リンカーン公園を散歩し、サンドウィッチを食べてユースに戻る。



シアーズタワーからシカゴの街を見おろす

960513 Mon

 昨夜は午後10時頃オーストラリア人とオランダ人とアメリカ人とでブルースバーに行った。ユースの近くにブルースバーが3軒もあるのでよい。下水臭いユースだが。聴いたバンドの編成はドラムス、ベース、ギター、トロンボーンで、ギターとトロンボーンが歌も歌う。ギターがすごく格好いい。変な癖もないし。トロンボーンはいない方がいい。バーは薄暗くて、ステージは狭いが、トイレは妙にきれいで観光客は多いらしいことが想像される。

 途中から尻が妙に出っ張った年寄りが出てきて、こてこてのブルースピアノを弾きながら歌い始めた。決してうまくないが間が良く、カデンツァ的なところやエンディングの息はピッタリで、どうしてあんなにピッタリ合うんだ、と感動した。MCと歌の境がないほどルーズだが、キメるところはキメてくる。誰が見てもよれよれで今にも倒れそうなおじいさんなのだが、ノッてきて激しく踊り出すのを見ると、単純にすごいなあ、と思ってしまう。ブルースはすごい!

 その後別のバーに行き、ビリヤードを少しやって、夜3時頃ユースに戻った。オーストラリア人は妙にビリヤードがうまかった。帰ったら自分の毛布がなかった。下の体臭臭いデブに取られたらしい。

 シカゴ・オーケストラ・ホールの最上階ギャラリー席にて。インターミッション中だ。シカゴ交響楽団ではなくてオルフェウス・オーケストラなので、客は半分くらいだ。客もなんか洗練されていない感じがする。ホールは円形に近い形で、近代的で大きい。Mayr, Mahler, Hyla, Schuberなどの曲をやった。指揮者はいない。Hylaの「Trans」とい現代曲を聴く。シカゴ初演らしい。なかなか良かった。

 この楽団、徹底的に指揮者なしでやっているようだ。曲が終わった後不自然に2度礼をするのが決まりらしく、また通常指揮者がするように、拍手に応えて全員でぞろぞろ再入場してまたもや2度礼をするのだ。まるで新興宗教の儀式である、あれは。指揮者の存在による中央集権的な音楽作りに対抗する確固たる思想があるんだろうな。ティンパニストがやたらに硬いマレットを使うのが非常に気に入らない。やはりCSOが聴きたかった。

 今朝は10時頃昨日知り合ったアメリカ人とオーストラリア人とで、Art Institute of Chicago(シカゴ美術館)にバスで行った。もちろん現地で別れて自由行動だ。モネやルノワールが一番目立つ所にある。現代物ではボストンには少ないジョージア・オキーフが多くて良かった。パウル・クレー、マグリットは数点、カンディンスキーも多かった。作者は忘れたが、1メートル四方位の四角い枠内に英語辞典のすべての単語を小さな青い字で書いたものや、鉛筆をうまく削って30センチ位の高さの螺旋にしたものなど、身近な素材から誰も想像できないような作品にする人の特別展のようなものをやっていた。名前を覚えておくべきだった。

 写真展はあまり充実していない。織物(絨毯やシーツなど)はとても良かった。無地のものや不規則な幾何学模様が好きだ。5〜6時間をここで過ごして、マクドナルドでフィレオフィッシュを食べ、Depaul大学のミュージックショップがいくつか集まったオイシイ所を訪れた。ボストンにもあるカール・フィッシャー出版社があった。ヴィブラフォンが2台、マリンバ1台、ザイロフォン5台置いてあるという素晴らしい店もあった。ボストンは完全に負けている。ブルース・ギターの本を買って、バスが分からなくなったので歩いて帰った。早足で1時間もかかった。

 以上、オーケストラ・ホールにてシューベルトの第2交響曲を生で聴きながら書いたのは、結構贅沢なことだ。


960514

 ユースホステルを9時半にチェックアウトして、でかい荷物を持って(美術館で不用意に増えてしまった。反省。)バスに乗りユニオン駅へ。荷物をコインロッカーに預けてみた。結構高くなりそうだ。美術館に預ければ良かった。身軽になってチリドッグとコーヒーをたのむ。いきなりキャピキャピした女の子たち20人くらいに囲まれてしまった。中学生だろうか。遠足だろうか。一部の例外を除いてみんなカワイイなあ。男の子はいない。のがまた良い。

 一時はどうなるかと思ったが、昨日来たDepaul大学のミュージックマート内のピザ屋にいる。ユニオン駅から歩いて、ループ(高架鉄道)でメトラという電車のルドルフ駅へ、シカゴ中心部から5〜6km南のMeseum of Science and Industry(科学産業博物館)に行った。基本的に子供向けの展示が多いものの、科学の諸分野と現代の産業や技術全般にわたって興味深い展示がなされていた。

 オムニマックスシアターという半球形のスクリーン上で宇宙や宇宙開発、航空などをバーチャル ・リアリティー的に45分間上映していた。火星や金星の表面の映像などでは、実際にその上空を飛んでいるかのようだった。水玉模様を内側に書いた半球を顔に近づけて回転させると、自分が回転している錯覚にとらわれ、脳が混乱するという説明があった後、実際にスクリーンにそれが映されたときは驚いた。本当に自分が回転しているようで、おっとっとと手を出したくなるのだ。その他もろもろ、酔いそうな映像がいくつかあった。宇宙や航空に関してアメリカはかなり説得力があると言える。映像が豊富だし、至る所にユーモアがあり余裕を感じさせる。私が小学生だったら間違えなく感動して航空宇宙工学にあこがれたに違いない。

 展示はほとんど見たが、3時間くらいで飽きた。大体知っているものが多かったからだが、実際に見る、触る、というのはそうは出来ない。実際の人間の脳や心臓、頭部の輪切り、電話の原型やハンドルを回して火花を散らせる円盤、ほとんど全部の元素の展示、フーコーの振り子などの展示が印象に残った。

 4時閉館直前に出ていき、バスに乗ろうとしたが、来ないので電車メトラの駅に行った。閑散としてホームにほとんど屋根がないような駅員もいない小さな駅で、30分経っても誰も来ないし電車も来ない。おまけに雨も降ってきて、この寒いシカゴでどうなるんだろうとひどく寂しい気分で40分くらい待っていたら、東洋人女性が1人、白人男性が1人来たので安心した。単に電車の本数が少なかったらしい。

 パラパラと雨の降る中ユニオン駅に向かった。初めてシカゴを歩いた日と同じ道を、橋を渡って駅へ。見上げると世界一高いシアーズ・タワーが。駅でコインロッカーを開けるとコインだけで$3.75が必要になった。両替してクウォーターを山ほど持って荷物を取る。立派で天井の高い一番広いホール(映画「アンタッチャブル」で使われたらしい)で待っていると、耳の聞こえないらしい若い女性が眼鏡などに使えるような小さいドライバセットを配ってきて$2.00取っていった。"Thank you!"の代わりに投げキッスのようなしぐさをした。良いことをしたようだが、そこらにいる物乞いとどう区別して良いのかは分からない。これは日本も同じか。

 ニューヨーク行きレークショア・リミテッド号のコーチ内にて。ボストン〜シカゴ間よりも込んでいる。隣には太った頼りなさそうなオジサンが。さっきまでIDがなくなったとか言っていたが見付かったらしい。ラウンジでホットドッグとバドワイザーを頼んだら、ここでは野球は見られないよ、とジョークを言われた。典型的な野球観戦の組み合わせだったらしい。

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