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空を見てますか―気象予報士試験受験記
2003.9.10 本澤なおゆき

 「空を見てますか」というのは作曲家・池辺晋一郎のエッセイ本のタイトルである。現代人の多くは仕事や勉強などが忙しくて、落ち着いて空を見ることは少ないのではないだろうか。私もそうだった。天文少年だったはるか昔は、よく夜空を見ていた。しかし、受験戦争、音楽活動、仕事と次第に忙しさがつきまとうようになってからは、いつの間にか空を見上げることもなくなり、足元と前だけを見るようになった気がする。天気予報も聞かず、折り畳み傘を毎日持ち歩いていた。冬型の気圧配置の時の太平洋側みたいに、どう転んでも降水がない時であっても。

 けれど、気象予報士の勉強を始めてからは、毎日天気予報をチェックし、暇さえあれば空を見るようになった。いろいろな高さにさまざまな形の雲が浮かぶことに驚き、折り畳み傘を家に置いて荷物を軽くする楽しみを感じ、さらには、予想通り雨が降ると嬉しいと感じるようにまでなった。嫌だった雨が楽しくなるとは、ずいぶん自分も変わったものだと思った。

 気象予報士になるためには、年2回行われる気象予報士試験に合格しなければならない。試験は学科2科目、実技2科目の合計4科目である。学科はマークシート方式、実技は何枚もの天気図を睨みながらの筆記試験である。局地予報を組み立てたり、台風などの防災上の注意点を挙げるなどの記述問題のほか、天気図に前線や各種等値線を描いたりもする。



写真1 気象予報士登録通知書
 3月に気象予報士になった私はというと、第20回気象予報士試験が1月、試験勉強を始めたのは昨年の7月だから、約半年の独学での一発合格だった。聞いた話では、初めて受ける試験で全科目が合格する人は1%程度なのだそうだ。しかし、全科目ギリギリの成績だったことを、自己採点した私は一番よく知っているので、そのことはあまり自慢にはならない。特に、一番の基本の科目である「気象業務に関する一般知識」では、あと1問間違うと不合格だった。というか、ひどい話なのだが、試験直後に某予備校のサイトで解答速報が掲載されたのでこれで採点したら、「学科・一般」の点数が合格ラインの「15問中11問」に満たない10問になってしまい、この時点でもう落ちたと思って、早速次回の受験のプランを立てたのだ。しかし数日後、正式な解答が発表されると、なんと例の解答速報が間違っていたことが判明し、再び自己採点したらギリギリの「15問中11問」で学科合格、実技に希望をつなぐことができたわけである。

 昔取った杵柄ではないが、試験勉強の要領の良さもあいまって、実技試験も通ってしまった。WEBでの合格発表ページに自分の受験番号が載った。なかなか信じがたかったので、雨の降るなか大手町の気象庁まで行って合格発表の掲示を確かめた。普通は1回で合格するのは難しいから、まず1回目で学科だけを取り、学科が免除になる2〜3回目で実技のみに専念するのが効率的だと言われる。私も始めはそうするつもりで望んだのだが、試験の1ヶ月半くらい前で学科の勉強に飽きてしまい、一応実技の勉強も一通りやっておこうと思ったのである。勉強に飽きた「学科・一般」は本当にヤバかったが、実技まで通るとは思わなかった。漢字の書き取りのように模範解答を何度も書いて慣れる勉強法が良かったのだろうか。

 さっそく登録のための必要書類を揃えて気象庁に送ると、数日後に写真1のような登録通知書が送られてきた。山櫻のA4の賞状用紙にインクジェットプリンタで刷ったような安っぽいものだったが、仕事柄その辺の事情は分かるような気がするので目をつぶる。登録番号はNo. 4095で、まあ2の12乗マイナス1というややアカデミックな数字なので良しとした。

 実は気象予報士になったからといって、すぐに一人前の天気予報ができるわけではない。ビジネスとして予報を出すには気象庁の事業許可が必要だし、それよりも実践や講習会、気象予報士会の天気図検討会などに参加して研鑽を積む必要がある。ちょうど運転免許を持っていても運転に自信がないペーパードライバーのようなものである。しかし、気象庁の予報をもとに、周りの人に天気の傾向を解説するということはできる。気象予報士は皆普段から高い防災意識を持っているので、多少なりとも人の役に立つ資格であると言える。なんといっても全国の気象予報士の数は4,248人(2003年8月18日現在)と、医師よりも弁護士よりもずっと希少な存在なのだ。私は天気のことをいつ聞かれても困らないために、なるべく毎朝何種類かの予想天気図を見たり、時々ラジオの天気予報を聴いたり携帯でレーダーをチェックするようにしている。


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